『戯曲を読む会 全国大会2019』
大会情報
日時:2019.9.22(日)14〜18時
場所:日本大学藝術学部 江古田校舎 A棟1F
主催:『戯曲を読む会 全国大会2019』実行委員会
プログラム内容
・開会式/主催団体紹介
・戯曲の本読み体験(2部制)
※読んだ戯曲の紹介はコチラ
・他団体紹介/座談会/意見交換会
※2019年大会のアンケート結果&レポートはコチラ。
※2019年大会の写真ギャラリーはコチラ。
開会式・座談会・意見交換会
※以下は、大会当日の録音データを文書化したものである。
【開会式】
望月(司会進行/古典戯曲を読む会@東京)
14時になりましたので始めさせていただきます。これから4時間よろしくお願いします。「戯曲を読む会 全国大会2019」これは一体どんな会なのか、なぜこの会をやろうと思ったのか、委員長の松山に説明していただきます。
松山(実行委員会委員長/本読み会)
ようこそいらっしゃいました。「戯曲を読む会 全国大会2019」、よくこういう謎の会にいらっしゃるなと思ってびっくりしております(場内爆笑)。やりたいことは、本当にシンプルです。大上段に構えれば「戯曲文化の発展」、噛み砕いて柔らかくすると「戯曲を声に出して読むことの魅力をもっと広めていきたい」これだけなんです。後ほどご紹介いただきますが、戯曲を読む団体というものは、全国にあります。今回は主催が4団体、ゲストとしてお呼びしているのが5団体、そして、本日ここにいらっしゃれなかったものの、ホームページ上でご紹介させていただいている6団体…計15団体の連合という形になっています。まずは、本日開催にこぎつけられましたことを皆様に御礼申し上げます。本当にありがとうございました。(拍手)
戯曲を読んでいるだけですから、はたから見ると絵にならないし、何が起こっているかもよく分からない。その輪の中では凄まじく面白いことが起こっているんですが、なかなかそれが外に伝わりにくいし、一度に50人も100人も楽しむことができないのが戯曲読みの難しさでもあります。だから、一斉に100人も200人も読めますよという形にするのではなく、こういう戯曲を読む会が全国にもっともっと増えて、若い学生さんなんかもどんどんそういう試みをしていただけたらいい。その後押しになればという思いでやっております。
いろいろな形で、私たちは戯曲に遊ばせてもらい、楽しませてもらっている。その魅力に取り憑かれて、こういう会を開催するに至りました。ここから、たとえば戯曲が売れる、あるいは戯曲が手に取られ声に出されていく…どんな形でもいいので戯曲に対して恩返しをしたいという思いを強く抱いています。1日、4時間なんて、もうあっという間だと思いますが、どうぞお楽しみください。よろしくお願いいたします。(拍手)
望月
ご挨拶遅れました。わたくし本日の司会を務めさせていただいております、望月と申します。古典戯曲を読む会@東京の世話役を務めさせていただいております。
では、今日の主催団体の自己紹介をさせていただきます。まず本読み会さんからお願いします
【主催団体紹介】
本読み会(東京)
大野(本読み会)
皆さんこんにちは。私と松山が2人でやっている戯曲の読書会が「本読み会」と申します。東京を中心に活動しておりまして、始めたのが2004年なので、もう15年。たぶん日本で一番長く活動している団体ではないかと思います。私と松山は演劇学専攻の学生で同級生なんです。その時に戯曲をちゃんと勉強しないといけないと思ったんですが、戯曲ってひとりで家で読もうとしてもつまらないんですよ。なかなかやる気が出てこない。これはやっぱりひとを巻き込んで読み合わせをする勉強会を作ろうということになりました。ひとを巻き込んだら、自分もサボるわけにはいかなくなりますからね。以後、大体2か月に1回のペースでやっていて、先日第81回を開催しました。古今東西いろんな作家の作品を扱っています。
読む時間は必ず4時間取っています。あまり長い戯曲だとたまに削ることもありますが、できるだけ1つの作品を最初から最後まで読み通すようにしています。また、1役1役、参加者に役を振って読むことも大事にしています。
他の団体の方との比較も楽しんでいただければと思います。よろしくお願いいたします。
古典戯曲を読む会@東京(東京)
片山(古典戯曲を読む会@東京)
こんにちは。「古典戯曲を読む会@東京」の世話役の片山と申します。今日は司会をやっています望月と私の二人が世話役を務める会です。東京の会が始まったのは2006年の12月です。SPAC(静岡県舞台芸術センター)の俳優である奥野晃士さんが、知り合いの俳優に声をかけて、2006年にまず大阪で戯曲を読む会をスタートさせました。その後、東京、静岡、上田、名古屋へと広がっていきました。普段は互いの会の交流はなく、それぞれがバラバラに活動しています。
東京の会の開催は、基本的に毎月1回。第3か第4土曜日の19時から。会場は、私が早稲田大学で教えていることもありまして、主に早稲田大学戸山キャンパスの教室で開催しております。
古典戯曲を読む会には一つのルールがありまして、物故者しか扱えません。このルールは他の地区の古典戯曲を読む会でも踏襲されているようです。「作者が死んだら古典」という定義なので、ギリシャ悲劇、シェイクスピアから井上ひさし、サラ・ケインまで全部 古典ということです。逆に、生きている人は扱わないという縛りになっております。作品の選定は、私と望月が選ぶこともあるし、参加者の希望で決まることもありますが、なるべく洋物と和物が半々くらいになる感じで、バラエティに富んだ内容になるよう心がけています。
会場費など基本的には全て無料です。手に入らない変わった作品もたくさん扱いますので、テキストも印刷して渡すようにしています。ただし、文庫などで簡単に手に入るようなものは各自用意してもらっています。毎回の出席者は10人から20人くらい。あまり多くなっても読みにくいので20人くらいを定員にしております。
参加者は、演劇ファンの方、作家に興味がある方、あるいは研究者、俳優や演出家、前に演劇をやっていた方など、本当にいろいろで、作品によっても参加者の顔ぶれはかなり変わります。もちろんレギュラー的に来られる方もいますが、会員制度ではなく出たい時に出るという形ですから、私と望月以外は結構流動性があり、ゆるやかにやっております。
開催告知はTwitter、Facebook 、あとはブログでおこなっておりまして、開催の2週間くらい前に告知を出しています。「古典戯曲を読む会@東京」で検索していただければ、開催の状況など分かるかと思いますので、ご興味のある方は、ぜひチェックしていただければと思います。
古典戯曲を読む会@静岡(静岡)
片岡(古典戯曲を読む会@静岡)
「古典戯曲を読む会@静岡」の片岡佐知子と申します。SPACで俳優をしております。どうぞよろしくお願いいたします。
古典戯曲を読む会@静岡の発足は2007年。静岡市清水区にあるスノドカフェという喫茶店で、普段演劇に触れていない方と演劇の出会いを作りたいということで、奥野さんと今日来てくださっている横山義志さんが設立した会です。東京の会と同じく、物故者縛りです。静岡なので、お茶を飲みつつお菓子を食べつつのゆる〜い会なんですけど、大体10人前後の方がレギュラーで参加してくださっています。月イチ開催で先月で127回になりました。12月には鍋を囲みながら本読み会をやったりもしています。どうぞよろしくお願いいたします。
いずも戯曲読書会(島根)
新田(いずも戯曲読書会)
出雲市からやってまいりました「いずも戯曲読書会」です。先程15団体とおっしゃっていましたが、その中で読書会って名前をつけてるのはうちだけみたいですね。でもポイントはそこにあります。
出雲市っていうと過疎地で有名で、あ、無名か(場内爆笑) 出雲市って島根県なんですが、島根県と鳥取県の区別がつかない人も多いようで、そういうところからきました。長く東京に住んでいて、リタイヤして田舎暮らしをしたいと引っ越して6年目です。最初の1年はのんびり暮らそうと思っていたら、冬季うつという病気になりました。ちょっと気候が悪いので、太陽に当たらないとそういう風になるらしいんです。これはちょっと街へ出ていろんな人と接したり、陽に当たったりしないといけない。そこで考えました。まず、私は昔お芝居をやってたんで戯曲演劇関係の本をいっぱい持っています。もうひとつ、同窓会に出た時の友人の話を思い出しました。齋藤孝先生のベストセラー『声に出して読む日本語』をテキストにした、年寄り向けの脳活トレーニングがあるそうなんです。「山のあなたの空遠く…」とみんなで読んで、読んだ後、みんな「これでいいのかな」ってキョトンとしてるらしいんですよ。じゃあ、戯曲を読みながら対話や会話すればいいじゃないかと思いまして。読書会みたいな事をやりたかったし、声に出して読んだら健康にも頭にもいいんじゃないかと。それを合体させて戯曲読書会。正式名は、「声に出して読む名作戯曲読書会」という長いタイトルをつけています。
最初は公共施設でやっていたんですが、寂れた商店街に、何をやっても人が集まらないので商工会が無料で貸してくれるスペースができて、4回目くらいから、そこでやっています。元は商店だったんでガラス張り。裏が飲み屋街なんで、酔っ払いが「何やってんだ?」って覗きにきたりするわけです。それを「まあ、入んなさいよ」って引き込んで、ごく短い、門番Aの「おい、こら、誰だ」みたいな台詞をパッと与えてみんなで笑ったり…そんな感じで、ゆるくやってます。
作品は、「名作戯曲」ということで、シェイクスピアからギリシャ悲劇から… それともう一つ、地域の特性を大切にしています。実は小泉八雲が最初に日本で赴任したところが松江なんです。彼はアイルランドで育ったのでアイルランドものをやるとか。あと、私の住んでいる町がフィンランドの町と友好姉妹都市にあるので、北欧のイプセンやストリンドベルグ(ストリンドベリ)とか。それからチェーホフ。東京で演劇をやってた時はなかなかチェーホフが分からなかったんだけども、今の風土の中で読むと、「ああ、こういう話なんだ」とすごく理解できたりするんです。
参加者の人数とかは他と似たようなもんです。それと、最初のころ人数が集まらない時は、熊さん八つぁんの前座話みたいな落語もやりましたね。あ、うちも開催数は127回です。ただし5年半で。だから月3回。最初4回で(会場どよめく)今日は『サロメ』と『海神別荘』やります。また時間があればあとでお話しようかと。田舎から出てきたから楽しくてしょうがなくて。
【座談会】
Part 1 主催団体の感想
★東京は「読む」という気迫が段違い
望月(司会進行/古典戯曲を読む会@東京)
では第2部のシンポジウムを始めさせていただきます。
大雑把に3つのパートに分かれます。最初にWSをやってみた主催団体の感想。次にゲスト団体のご紹介。最後に皆さんを交えて、感想でもQ&Aでも何でもありの意見交換会にしたいと思います。では、しばらくの間我々の話にお付き合いください。
まず、先ほどは壇上にいらっしゃらなかった横山さん、簡単に自己紹介をお願いします。
横山(古典戯曲を読む会@静岡)
古典戯曲を読む会@静岡の横山と申します。最初にも話が出ましたが、2007年にSPAC(静岡県舞台芸術センター)で働きはじめ、その時に俳優の奥野さんから「古典戯曲を読む会というのをやっていきたいんだけど、あまり自分が表に出たくないので、ちょっと代わりに出てくれ」と言われて巻き込まれました。去年くらいから東京芸術祭というところで働いていまして、私が静岡にあまりいられなくなったため、片岡さんに任せっきりになってしまっております。よろしくお願いします。
望月
2回に渡って本読みワークショップをやったわけですが、皆さんファシリテーターとしてのご感想はいかがでしょうか? さっきは東京から遠くへ行ったので、今度は遠くのいずもさんからお願いします。
新田(いずも戯曲読書会)
参加者が素晴らしくて、ずっとやっていたかったと思うほど楽しませていただきました。
やはり好きこそものの上手なれで、好きでやられている人は3回くらいやるとコツを覚えてみんな上手になっていく。逆に、参加するけど好みじゃない人は去っていく。そういう意味では、ここは積極的な方ばかりで、すごくやりやすかったです。ただ、いつも10人くらいでやってるんで、もし30人とか50人とか来たらどうしよう…っていうのが不安で、その緊張から、昨日はちょっと飲みすぎて二日酔い(場内爆笑) ともかく楽しんだという一言に尽きます。
望月
普段やってらっしゃる会とは、雰囲気とか参加者の反応とか違います?
新田
さほど違いはないです。ただウイークデーの昼間にやったりするとリタイヤされた人や主婦が多く、平均年齢が60歳以上になったりするんですが、こちらは若い人、学生さんとかもたくさんいらしたんで、ちょっと新鮮でしたね。新訳の『サロメ』を16歳の女性でやったときには、年齢的なバラエティが出て、とても良い感じでした。
望月
では次に静岡。第二部の三島由紀夫に、何故あんな大勢の人が詰めかけたんでしょう(笑)。
片岡(古典戯曲を読む会@静岡)
本当に嬉しかったです! 24人にご参加いただきました。ありがとうございました。三島の話からさせていただきますと、参加者に、読んできてくださったのか初見か伺わなかったんですが、全員上手い! 役柄の説明もせず初演の文学座の配役だけを言ってポーンと読み出したんですけど、そんな稚拙なファシリテーションを補うかのごとく皆さんが物語を構築していって、本当に鳥肌が立ちました。
横山(古典戯曲を読む会@静岡)
今回、東京で初めてやらせていただいて、モチベーションの凄さを感じました。本当に「読む気」で来ている。実は静岡の読む会は、半分読む会なんですが、あとの半分は自己紹介とお菓子を食べる会でして(場内爆笑) まず自己紹介が1時間くらい続き、それから1時間くらい読んで、またお菓子を食べながら1時間くらい話すっていう、そんな感じです(笑) 静岡では、文化的なことで集まったり、演劇などのテーマで話したり出来るところが少ないので、そういう場として機能しているわけですが、今日はみんな「読む」気で来ているっていうのがすごくあって、鬼気迫る読みを聞かせていただきました。
片岡
ハムレット読み比べの坪内逍遥訳(1933年)、旧漢字を現代仮名遣いに直すってことだけでいっぱいいっぱいで、漢字のルビを振れなかった箇所もあったんですが、もうそんなの関係なくスラスラ読んでいただけて感動しました。
★三島由紀夫は人が集まる?集まらない?
望月
では次は古典戯曲を読む会@東京。
片山(古典戯曲を読む会@東京)
今回はもう望月さんに丸投げで、私はほとんど何も準備しなかったんですけど…。
望月
僕が何よりも思ったのは、今回チェーホフが(チラシやTシャツの)イメージキャラクターなのに、何故チェーホフにあんなに人が少なかったのかと(場内大爆笑) すごいショックです(場内爆笑)
片山
俺も、ちょっと落ち込んでるのかなと(場内爆笑)
片岡
すみません、(三島由紀夫『熱帯樹』の)近親相姦でお客さんを奪ってしまい…
望月
(チェーホフのTシャツを指し)このデザインに惹かれて来る人もいるはずだと思ったのに、なんでまた…
片山
あの〜、思い浮かべたのはですね、4チームに人が分かれて自分で選べるってやったじゃないですか。『包丁人味兵』のラーメン大戦争のピラニア勝負みたいだなと。
望月
知らないよそんなの(場内爆笑)
片山
4つのトレーラーで4人のラーメン職人が100人の客に出前をして、どれが一番なくなるかっていう競争をした巻があるんですよ(場内爆笑)
本当にラーメン合戦のピラニア合戦みたいだな。我々は負けだなと。
望月
いや知らないから。うちのチームの集客の少なさ、これはちょっと反省会だね(場内爆笑)
横山
東京は常にやってるので珍しさがないってことじゃないですかね。それに対して静岡や出雲はあまり行く機会が無いから。
片山
東京だという気のゆるみ。
望月
傲慢さというか、おごりがあったと。あとやっぱりファシリテーター2人がオッさんだったのが…(場内大爆笑)
新田
俺なんかおじいさんだよ(場内爆笑)
望月
同じ東京だったら、本読み会のおふたりの方が若くて、こっちよりはマシだろうって。
片山
迎える気迫みたいなのがちょっと足りなかったと。来てくれー!みたいな
大野(本読み会)
すごい競い合ってますね(笑)
望月
全国大会だからね(笑)
大野
一応、決勝なんですね(笑)
望月
三島由紀夫に人が集まって驚いたのには理由があります。その時は、まだ僕は参加してなかったんですけど、古典戯曲を読む会@東京に伝説の回があるんです。三島の『鹿鳴館』に全然人が集まらず、正月に男3人で読んだという(笑)
片山
なかなか人が集まらない時がありまして、「お正月だから三島の『鹿鳴館』なら絶対女性が来るぜ!」て言ってやったら、3人しかいない(笑)
小柳(来場者/元 古典戯曲を読む会@東京の世話役)
片山さんと吉植荘一郎さん(SPAC俳優/元 古典戯曲を読む会@東京の世話役)と私の3人(笑)
片山
「これはおかしい!『鹿鳴館』もう一回やろうよ、今度は絶対大丈夫だよ」って言ってやったら、次も3人しか集まらなかった(場内大爆笑) それが屈辱の記憶として残っております。
望月
だから古典戯曲を読む会@東京では、「三島由紀夫では人が来ない」っていう認識が根づいちゃってる。それで絶対『熱帯樹』に人が集まるわけないとタカをくくっていたら、完璧に食われました(笑)
横山
静岡では毎回三島には人が来ますよ。
大野
うちも三島にはすごい来ます。
望月
えーっ!やっぱり世話役に何か問題があるんだよ(笑)
片山
そうとしか考えられない…
★戯曲を通じて読む人を知る
望月
では、本読み会さんどうぞ。
大野(本読み会)
すでに出ましたけど、みんな「読みに来てる」というのはすごく感じましたね。第1部の時に「初めて戯曲を声に出して読む人」と聞いたら、一人しかいなかったんですよ。いやこんな場所が日本にあるのかと(場内大爆笑) 「戯曲って何ですか?」って聞かれるのが、今の日本のアベレージですから。そういう人たちだけに、別に上手い下手ではないんですが、みなさん本当に読むのがお上手だな〜と、1部も2部も思っていました。
あと、普段の会とすごく違ったのは、相方の松山が、今日は解説みたいなものをやたらと喋るんです。多分、短時間だからだと思うんですけど。
松山(実行委員長/本読み会)
普段は4時間かけて1本丸ごと読むんですが、今回は途中だけ抜き出して読んだので、ここまでにこういうストーリーがあって、こういう人物関係で…って話をしました。
あと、普段はレギュラーで来てくださる方もいるわけですが、今回はほとんどの方が初顔合わせという点が特別でした。そういう場では、戯曲自体を楽しむのはもちろんですが、戯曲を読み、それを聞くことを通じて「私の恋人役で読んでいるあの人は誰なんだろう」ということを、ちょっとずつ探っていくことになる。そんな、戯曲を媒介として見知らぬ人同士が互いを探り合い、繋がっていく機能が浮き彫りになった気がします。それは普段とすごく違う面でしたね。
大野
彼は、普段はちょっとクールな感じなんですよ。私はわりとホットな感じで、戯曲読むと「これが本当に好きなんです!」みたいな感じで熱くなり、途中であれこれ語ったり。それに比べて彼はあまり喋らないんですが、今日は時代の説明とか解釈とかやっていて「ああ、ちゃんとファシリテートしてるのかな」と。
松山
短時間ですからね。やはり「来て得をした」っていう感じで帰ってもらう事が大事だと思います。普段は4時間かけてそれができるんですけど。
大野
ご来場の皆さんに後で聞いてみたいのは、短い時間だったので、そこがどうだったかという点ですね。この大会、できれば継続してやりたいと思っているので、どんな形で読むのがいいかも検討課題です。ぜひご意見いただければと思います。
Part2 ゲスト団体自己紹介
望月
実のところ、この会は第1回ならぬ第0回ぐらいの気持ちで企画してきました。それにしてはずいぶん本格的なことになり、たくさんの方に集まっていただきましたが、戯曲を読む会はもちろんこの主催4団体だけではなく、全国に散らばっています。今回はあちこちにお声がけして、その中から5団体の方がゲストとしていらっしゃっているので、それぞれ自己紹介をお願いします。
まず「戯曲よむかい」さんから。
○戯曲よむかい(東京)
西村(戯曲よむかい)
「戯曲よむかい」をやっております西村壮悟と申します。俳優です。2〜3年ほどイギリスと日本を行ったり来たりしていたんですが、帰ってきた時にたまたま新国立の『反応工程』(宮本研 作)のオールオーディション企画があって受けたんです。その時せっかくだからと人を集めて『反応工程』を読んでみたのが、会の始まりです。それからチェーホフの『かもめ』や、オスカー・ワイルド、ジョン・ウェブスターなんかをやっていますが、昨年始めたばかりなので、まだ4回程度です。翻訳戯曲をやる事が多いですけど、日本の戯曲もリクエストがあればやりたいと思っています。
だいぶ前ですけど、一度本読み会にも参加させていただきました。古典戯曲を読む会@東京さんの方もチェックしているんですけど、なかなか日程が合わなかったりして、まだ参加できずにいます。
できれば月イチくらいでやりたいんですが、ファシリテーションの問題とかもあって、今のところ不定期開催です。今日2つ参加させていただきましたが、静岡の方も本読み会の方もファシリテーションがすばらしくて、すごいなと感心しました。なかなかそこまでやれる余裕がないので、今のところ不定期開催です。
場所は東京の杉並区で、友人のスタジオの小さな部屋を借りてやっています。コピー機とかも自分で持っているわけではないので、印刷代とか実費を頂戴してやっております。
片山
参加されている方は?
西村
プロアマ両方いらっしゃいますが、全く演劇に携わっていない方は、まだ来られた事がないですね。でも誰でも大歓迎で、Twitter やブログなどで募集しています。好きな役を、老若男女問わず性別も全然関係なく読んでもらっています。4時間くらいかけてやりますので、基本的に一つの作品を全部読みきって、その後お喋りしてという感じです。
参加者は大体10人前後です。多かったのは、『反応工程』とオスカー・ワイルドの『真面目が肝心』。喜劇が好まれたのかもしれないです。
○戯曲を囲む会(長野)
望月
次は長野からいらっしゃってくださいました「戯曲を囲む会」さんです。
福澤(戯曲を囲む会 制作)
こんにちは、「戯曲を囲む会」制作の福澤です。今日は講師の酒井と一緒に来ました。登山をされる方はご存じかもしれませんが、長野県の真ん中に駒ヶ根市という町があって、そこの公民館の講座として2年くらいやっています。以前は地元のアマチュア劇団で「戯曲を読む会」というのを3年くらいやっていたんですが、そこが解散してしまったんです。そんな時、公民館に知り合いがいて、「何かやらないか」って声をかけていただいて、公民館講座としてやり始めました。市の講座ですので、参加費はすべて無料です。
毎月第3金曜日にやっていますが、公民館講座はあまり長い時間できないため、夜の7時から9時までの2時間です。長いものだと2〜3回に分け、短編は1回で読み切る感じです。平均で10人前後来てくださっています。
長野県の上伊那あたりは、昔から演劇が盛んでアマチュア演劇の団体もたくさんあります。潜在的な演劇関係者が多い場所です。でも仕事や家庭の事情で、やはり子育ての時期とか演劇から離れたりしますよね。それで「お芝居1本丸々は出来ないけれど演劇には繋がっていたい」という方に来てもらえたらいいなと思ってやっています。他にも「戯曲を文学として読んでみたい」とか、いろいろな方に来ていただきたいと思っていますが、毎回来てくださるのは地元のアマチュア演劇の俳優さんや劇作家さんですね。
読むジャンルはいろいろです。洋物と和物、現代ものと古典をできるだけ交互にやるようにしていて、今は井上ひさしの『頭痛肩こり樋口一葉』を読んでいます。その前はニール・サイモン、その前は毎回レギュラーで参加してくださってる地元の作家さんの作品でした。
大野
講師の方は、どんな形で参加されてるんですか?
酒井(戯曲を囲む会 講師)
講師というよりはナビゲーターみたいなものです。今日ファシリテーターの方がやっていらしたように、文節を区切って配役を割り振り、作者のプロフィールやあらすじ、人間関係などを解説してから読み始めるという感じです。
○アジアンカフェ 戯曲を読む会(秋田)
望月
次は秋田からいらっしゃってくださった「アジアンカフェ 戯曲を読む会」さんです。
佐藤(アジアンカフェ)
こんにちは。アジアンカフェという劇団を母体に、秋田市で年に1回、お正月に戯曲を読む会を開いています。私が代表の佐藤で、今日は制作の鎌田と一緒に来ています。劇団としてのアジアンカフェは、2000年から2009年まで秋田市で公演をやっていたんですけど、みんな結婚したり子供が産まれたりして今は休止中です。その間、私は東京でお芝居をやっていて、古典戯曲を読む会@東京さんに参加させていただいたこともあります。
それで公演がある時にしか戯曲を読む機会が無いのも変だと思い、杉並区の方でちょこちょこと仲間を集めて戯曲を読む会をやったところ割と好評で、これは秋田でもやってみようってことになりました。今は帰国中ですが、実は私、基本的に海外に住んでいるんです。それで私が正月に帰省する時に秋田でやるということで、2012年から始めて今年で8年。今8回目で、来年が9回目になります。
4時間くらいやりますが、静岡さんと同じように、雑談してお茶飲んでみたいな時間も結構ありますね。読むものは、いつも私が勝手に3作品選んで持って行きます。1作は映画のシナリオ、もう1作は、宝塚が好きなんで、去年は宝塚の『ポーの一族』を持って行きました。そういうのを楽しくやった後、3本目にちょっと真面目なものをやります。今年は竹内銃一郎さんの『モナ美』というのをやったんですが、最後のモナ美とトモ世のシーンは立ってやりました。8〜9人集まるんですけど、3グループに分かれて稽古してもらって、台本を持ちながら立って動くというのを、毎年最後の1時間にやっています。
なぜそうなったかと言うと、私が、座ったまま感情を込めるのがあまり好きじゃなくて、「じゃあ動こうよ」みたいな気持ちになっちゃうんです。だから初めて参加した人は「えー!」となることもありますが、「座ったり立ったりしていいから」と言って、やってもらっている感じです。
毎年1月3日の午後から4時間くらいやっているので、もし秋田に温泉に入りがてら来たい人がいらっしゃったらウエルカムなので来てください。
○戯曲を読む会 東京演劇アンサンブル(東京)
望月
では東京に戻りまして、「戯曲を読む会 東京演劇アンサンブル」さん、お願いします。
雨宮(戯曲を読む会 東京演劇アンサンブル)
「戯曲を読む会」を主催しています。便宜上こういうところへ来た時には「東京演劇アンサンブル」とつけさせていただいています。去年の6月にこの会をはじめまして、次で15回、月1のペースでやっています。
この会を始めたきっかけですが、まず去年の5月にふじのくに⇄せかい演劇祭でドイツの『民衆の敵』を拝見することになりました。そこで事前に戯曲を読んでいこうと言って、劇団員10人くらいでのんびり読んでいくうちに「ああ、こういうのいいね」となったんです。お客さんが誰も来なくても僕たちの練習になるからいいや、と思って始めたんですが、嬉しいことに毎回新しい方が来てくださって、10人から15人くらいでやってます。
国内と国外の作品を交互にやっています。アーノルド・ウェスカーやニール・サイモン、日本だと安部公房や岸田國士をやって、あとは東京演劇アンサンブルで上演した作品、坂手洋二さんや篠原久美子さんの戯曲もやらせていただいてます。
場所なんですけど、「ブレヒトの芝居小屋」という自分たちの劇場が西武新宿線の武蔵関駅に今年の6月まであったので、そこでやっていました。今は劇団が埼玉県の新座市に引っ越したので、当面 西武新宿線の公共施設でやっています。参加費はコピー代と会場費で500円いただいています。劇団としては学校で公演することが多いため、参加したいという学生さんも結構いますが、学生は無料ということにしています。
○こすぎナイトキャンパス(神奈川)
望月
では神奈川の「こすぎナイトキャンパス」さん、お願いします。
Ash(こすぎナイトキャンパス)
演出家・俳優・琵琶弾きのAshと申します。「こすぎナイトキャンパス」は〈初めて触れる戯曲〉という会を開催しております。武蔵小杉という、新しく開発が進んでいる街で、タワーマンションの一角を借りて、ちょっとラグジュアリーなイメージでやっています(笑)。演劇人の集まりという感じではなく、文化サロンのような感じでやっている戯曲会になります。〈初めて触れる戯曲〉という名前の通り、どなたでも大歓迎です。演劇をやったこともない、戯曲も読んだこともないという方に来てもらえるよう、敷居の低い感じで始めようというのが最初の目的でした。だから「初めて戯曲を読みます」という方も毎回必ずいらっしゃいます。
始めたのは4年前ですが、演劇を知らない方が来てくださることが多かったので、1年間のスパンで計画を立てました。開催は月に1回。必ずギリシャ悲劇から始まって、その次はシェイクスピア。その後近代に入り、だんだん現代に近づいていくんです。その間に演劇史の話も混ぜたりして、1年間で演劇というものを全般的に知っていただく計画です。
それを3年間続けましたが、月に1回は私もちょっと大変だったので、今年から2か月に1回になりました。ただ2か月に1回では、今までのように演劇史を網羅することは難しいので、今まであまり手を出せなかったアメリカ演劇に少しずつずつ手を出しているところです。今年は半期が終わりましたが、『バージニアウルフなんか怖くない』を1幕ずつ、3回かけて読み通したところです。次回は11月に開催予定ですが、読む戯曲は、もう1人の主催と検討しているところです。告知はFacebookと、あと「こくちーず」からも申し込めます。参加費は1回300円です。
○古典戯曲を読む会@上田(長野)
望月
「古典戯曲を読む会@上田」の方もいらっしゃっているということで、自己紹介をお願いいたします。
緑川(古典戯曲を読む会@上田)
「古典戯曲を読む会@上田」の緑川です。始まったのは5年ほど前で、(「犀の角」代表の)荒井洋文さんという方の音頭で始まりました。大体4時間ほどやりますが、半分は自己紹介と近況報告でつぶれます。今までやったのは、基本的には死んだ人(場内大爆笑) つかこうへい、三島由紀夫、カレル・チャペック、シェイクスピア…今月の18日に、ゲーテの『ファウスト』第1部を半年かけて読みきりました。
会場は上田市の犀の角という劇場で、素人が6〜7人集まってやっています。告知は犀の角のFacebookページで行っています。
片山
『ファウスト』は凄いですね。うちは、あまり長いやつをやると人がいなくなっちゃうんで(場内爆笑)
大野
やたら弱気ですね(笑)
Part3 意見交換会
★ト書きをどう扱う?
望月(司会進行/古典戯曲を読む会@東京)
ここからはご来場の皆さんを含めての意見交換会にしたいと思います。
僕の事前のイメージでは、「今回初めて戯曲を読みました」という参加者を期待していたんですが、皆さん手練れの人が多そうですね。ここまで3時間半近くやってきたわけですが、その感想でもいいし、意見表明でも質問でも読んだ戯曲の話でも、何でもいいので、手を上げていただければと思います。
参加者A
時々「こすぎナイトキャンパス」に参加させていただいている者です。秋田の方で映画のシナリオを読まれているというお話がありましたね。以前自分も仲間内で映画のシナリオを読んだことがあったんですが、シナリオになると、ト書き部分の処理がものすごく難しくて、そういう点はどうされているのかなと。映画シナリオは場面転換が多くて、読み手側の想像力がついていかないことが多い。それは海外の翻訳もの戯曲でも思うところで、ト書き部分のイメージをみんなでどう共有していくかが、楽しみどころでもあり、解決すべき点でもあるなと思ったので、その辺の取り組み方を聞いてみたいです。
佐藤(アジアンカフェ)
ト書きはいつも(鎌田)心子さんに読んでもらっています。『ハッピーアワー』って映画があったじゃないですか。あれが大好きで読んだんですけど、私が一部を抜き出して、状況を説明して、ト書きを読んでもらって…という形でやりました。シナリオって、動きだけの場面とかがあるから、ト書きが本当に多いです。
でも私たち、実はあんまりト書きを重視してなくて、雰囲気で空気読めみたいな感じでやってたりしたんです。でも今日、静岡の会に参加させていただいたら、ト書きを丁寧に読まれていて、やはりト書きは重要だなって思ったところです。あとテレビのシナリオで『やすらぎの郷』(倉本聰 作)が好きでやったりしたんですけど、あまり長い場面はやらず、区切って分かりやい形にしました。
参加者A
本読み会の『ウィー・トーマス』(マーティン・マクドナー 作)に参加させていただいたんですが、海外の戯曲はト書きがしっかりしているイメージがあり、その辺も想像力を膨らますために必要なのかなと思ってるんですが、そこらへんはどう取り組んでおられますか?
松山(実行委員長/本読み会)
戯曲の読書会をやる時、あるいはリーディング公演でも、ト書きの処理ってすごく問題になるところだと思います。「台詞と台詞の間のト書き」は読む団体の方が多いと思いますが、迷いどころは、台詞の間にカッコで入っているト書きですね。それを読むことで、次の台詞の読み方や身体が変わってくることもある。一方では、そこでテンポが削がれるという面もある。本読み会では、「カッコの中は読まないが、独立したト書きは読む」っていうスタイルでやっています。
これは、もっとお詳しい方もいるかもしれませんが、劇団や、さらに遡れば歌舞伎の本読み稽古が出発点になってるんじゃないかと思うんです。歌舞伎の本読みなんかだと、役名も言って、台詞を言って、ト書きも全部読んで…ってのが基本になるんで。一方 読書会になると、流派が分かれていってって事だと思うんです。
もうひとつ、参考になるか分かりませんが、本読み会では、短い作品は2回読んだりします。その際、1回目はカッコの中も含む全てのト書きを読むけれども、2回目は読まないっていうやり方をするんですね。そうすると、読み手はト書きの中で起きていることを分かった状態で、台詞だけを聞ける。そんな、少し段階を踏んで読みを進められるやり方もしています。でもこれも会によって試行錯誤があると思うので、他の団体の話も聞いてみたいです。
望月
うちも同じで、独立したト書きは読むけど、台詞内のト書きは読まないというのが普通だったんです。ただ、昨日片岡さんの話を聞いて、じゃあちょっとやってみるかって事で、2回とも全部僕がカッコ内のト書きまで全て一人で読みました。で、どうでしたか?…と言っても普段との違いが分かるのは結局片山さんしかいないんで、どうでした?
片山(古典戯曲を読む会@東京)
昨日、いずもの会の方とか静岡とか本読み会がト書きをどうやってるかって話を聞きまして。で、あんまり俺、他人がどう読んでいるかって基本的に気にしてないんだなって(場内爆笑)
大野(本読み会)
薄々気づいていました(笑)
片山
普段あんまり上演されそうになくて、でもちょっと読んでみたい戯曲ばっかり読んでて。結局それしか気にしてないんで、他人がどう読んでるかとかあんまり(笑)
望月
ごめん、君に聞いた僕が悪かった(場内爆笑)
Ash(こすぎナイトキャンパス)
うちは、最初は「全く読まない」という形でやっていたんです。三島なんかは、ト書きを読まないとまるで成立しないところがあるので、読んでいましたけど。4年やってる間にいろいろ試してみて、今落ち着いたのは「台詞の中のカッコト書きは、それを読む時間を取る」というやり方です。「焦って喋らなくていいから、そこを読む時間はしっかり取り、ちゃんと身体に入れた上で次の台詞に進みましょう」と言うのだけ最初に案内して、始める。基本的にはファシリテーターではなく、参加者がト書きも読む感じでやってます。
大野
今、三島由紀夫は別ってお話がありましたが、やはり作家によって、ト書きは本当に違いますよね。全然ト書きがないような作品もあれば、うるさいくらい入っている作品もあって。私はいつも読むときに、作家との出会いというのを凄く大事にしていて、この作家さんはどんな人なのかな?って知るのを楽しみにしています。だからト書きから見える作家性というか、ト書きだけを抜き出して「これは誰だ?」みたいなことをすごいやりたくなっちゃう。ト書きは舞台に乗らない言葉なので、作家の生の部分が出ているって思うんです。
望月
人によっては心情説明まで全部して、「それ、小説の地の文だろ!」っての、ありますね。大体は、日本の方が細かく書いて、外国方があまり書かないという印象が。
新田(いずも戯曲読書会)
昨日初顔合わせで、飲みながらみんなと話したとき、一番盛り上がったのが、このト書きの問題でした。作家の文体によって、考え方が違う。今日は泉鏡花と『サロメ』を扱ったんだけど、泉鏡花の方は小説家なので情景描写とか細かく書かれていて味わいがあるんで、これはきちっと読んでいただきました。
あとカッコ内のト書き、「なかト書き」とかって言うんだけど、動きや説明がある場合は、ト書きを読む係の人に読むように指定します。役名まで言いながら「A君登場、声を大にして叫ぶ。あー!」とか、ちょっと劇場中継風にやってくれって。
うちは年配の方も多いんで、脳トレっていうかボケ防止に声を出す意味もあります。なかト書きは、一瞬で黙読し、すぐに台詞部分で声を出さなきゃならない。これが脳活にはすごくいい。だからあえて「素早く読んでください」と言ってます。それで、他の人にイメージも伝える。もう演劇やリーディングではなく、ジャズのライブセッションみたいなもの。リアルに、生臭くやってくれと。これは独立したジャンルですね。
横山(古典戯曲を読む会@静岡)
静岡では、ト書きは、ファシリテーターである俳優さんの腕の見せ所で、片岡さんが、ト書きによって、全体のリズムを作ってくれています。
ト書きって、ギリシャ語ではdidaskaliaと言います。didaskein「教える」っていう言葉から来ているんですが、そこには「演出する」って意味もあります。元々 詩人のことをdidaskalos「教える人」とも言っていました。かつては詩人が口立てで俳優たちに(台詞回しを)教えていたんです。didaskalia=ト書きというのは、台詞をどういう風に読むべきかを、詩人が教えるためのものでもあったということです。読む会の俳優さんやファシリテーターも、それと似た役割を担っているように思います。
★戯曲読みに正解は無い?
参加者B
今日は、古典戯曲を読む会@静岡さんのハムレットの読み比べに参加させていただきましてありがとうございます。国語を中心に、塾で講師をやっております。3つの訳を読み比べて、「翻訳家によってここまで違うものか」ということを痛感し、視野が全然狭かったなと改めて学びました。
自分が好きでお芝居をやっているので、よく子どもたちを誘って戯曲を読んでいるんですが、そこで「読むときの感情をちょっと間違えてるんじゃないか…」と思うことがしばしばあります。でも、あくまでも作品に触れて欲しいというのが目的なので、あまり注意すると稽古みたいになってしまう。「こう読んで欲しい」という注意は、どこまで言っていいものか、みなさんからアドバイスをいただきたいです。
片岡
私たちは、SPACのアウトリーチ活動として小・中学生と戯曲を読む機会もあるんですが、その時、戯曲から読み取れる登場人物の特徴を分かりやすく共有するため、作中の言葉をもとにキャラクターの絵を描いてもらったりしています。たとえばハムレットなら、オフィーリアの台詞の中で「流行の鑑、礼節の手本、あらゆる人の賛美の的」って言われているのをもとに、みんなにとってのイケメンハムレットを描いてもらうとか。稽古ではないので、とにかく楽しく読んでもらうことを大事にしてます。声の小さい方もいらっしゃいますが、声を大きくすることじゃなく、心が解放されて楽しく演じられるようにすることを心がけています。たとえば漢字の読み間違いを指摘されて萎縮することがないように、できるだけ全部の漢字にルビを振ります。日本人だけじゃなくて留学生の方も来てくださいますから。ちなみに(SPACとしての活動ではなく)古典戯曲を読む会の方は文庫本縛りなので、読み間違いは逐一訂正させていただいてます(笑)
大野
「これが正しい解釈」って誰も決められないのが、戯曲の特徴じゃないかと思うんです。戯曲は、作家が書いただけでは完成せず、俳優など誰かが声に出して読むことで初めて完成します。だから作家がいくらこういうシーンって思って書いても、読む人がどんな読み方をするかで全く変わっちゃうわけです。シェイクスピアなんか本当に自由度が高くて、読み方ひとつでいろんな解釈の仕方ができるんですけど、どれも間違いではない。それが戯曲のいいところだなと、僕は思っています。
私なりに「この戯曲はこういう作品だ」っていうのは当然ありますが、それと全く正反対の解釈が出てきたら、「ああ、こういう風に読む人もいるのか」って、そっちの新しい可能性を楽しむことができる。作家だけでの声でもなく、キャラクターが持っている声だけでもなく、「読む人の声」が入るっていうところが、戯曲の一番いいところだと思ってやっています。だから私は導こうとか思ったことはないですね。「自由にやったら、今日はこんな感じになった」的な、それで十分に楽しんでいます。
★遊び(PLAY)の効用
望月
他に何かご意見等ございますでしょうか?
新田
参加者の方には、鬱病の人とか医療的な効果を求めて参加される方も多いです。大野さんは臨床心理士でいらっしゃいますが、そちらのお仕事と戯曲読みのつながりを意識されているところはありますか?
大野
私、本職が臨床心理士、公認心理師で、主に子供のプレイセラピーをやっております。遊戯療法で子供と遊ぶことを通して心理的な治療というかアプローチをするんですけど、PLAYって英語には「遊び」という意味と「演劇」という意味、両方ありますよね。私元々演劇をやっていて途中から心理に転向した人間なんですが、このPLAYって言葉からも、演劇と心理の世界は非常に親和性が高いと思っています。心理の方に転向した時は、「演劇やめるの?」みたいなことを言われましたが、私にとってはちょっと隣町に引っ越したくらいの感覚なんです。
新田
僕は放送大学で、「サイコドラマ」っていうものを見ています。一種の箱庭療法みたいなものですが、あれを見ると、確かに心理療法と演劇は近いものであることが分かります。ただ専門家でない者が、こっち方面に入りすぎるのは怖い感じもしました。
大野
サイコドラマは、演劇を心理療法の文脈で使っているものなんですけど、個人的な考えとしてはサイコドラマよりプレイセラピーとかの方が、より演劇に近いと思います。普通のカウンセリングもそうですが、複数の人が言葉やイメージのやりとりをする。その中で何かが起きてくるってところが既に演劇的ですね。
ただ、演劇と心理の違うところは「目的があるかどうか」だと思います。ホイジンガやカイヨワといった学者が「遊び」を定義していますが、演劇は遊びの方に近く、それを通して何かをしようってことまでは、あまり考えていない。それが先ほどの「正しい解釈(というものは無い)」の話につながるかもしれません。一方 心理療法は、明確に困難を抱えている方がいらっしゃって、その方を少しでも生きやすくするという目的がある。根底の部分が違うんです。
「遊び」という行為は、遊ぶこと自体が目的ですが、副作用といいますか、効用といいますか、すごく発達を促す効果があります。ヒトは遊んで育つんですね。大人になると、遊ぶ場所って減っていくと思うんですけど、「戯曲を読む会」ってすごくいい遊び場だと思っています。明確な目的はないし、上手くやる必要もない。ただ単に素材があって、みんな好き勝手に読んで、お風呂に入った後みたいな顔をして帰っていくんで。
★地方で戯曲を読むということ
望月
この会の目的は「戯曲を読む人」を増やすことなんですが、戯曲を一度に50人100人では読めないわけです。だから「戯曲を読む人を増やす」ってことは、「読む会と、そのファシリテーターを増すこと」でもあると思っています。ということで、「戯曲を読む会はこんな風にしたら作れるよ」とか「長く続けるにはこうすればいい」とか、最後にそんな話ができたらと。
アジアンカフェ
東京はいいですよ、いっぱい演劇好きな人がいるから。地方でやっている方が、どういう風に集客の工夫をしているのか聞きたいです。
望月
地方の話を聞いていると、「自己紹介や歓談が長い」という共通点がありますね。また、昨日「みんな車で来るので駐車場がないところでは開催できない」という話を聞いて、それはまったく思い至らなかったと…
アジアンカフェ
吹雪で中止とかありますよ。
新田
うちは秋田よりもはるかに過疎地です。演劇人口が少ないので、「読書会」にポイントを置き、チラシは市内6カ所にある図書館を主体に置いてます。それと、地方新聞2紙の情報欄にも毎回寄稿しています。ローカル紙は取材力が弱いので、寄稿は大歓迎だと思います。また、開会式でも話したように戯曲読書会の中で落語や漫才台本をテキストにして集客を図ったりと、いろんな手をつくしています。落語に関しては、その後、古典落語台本に特化した「落語読書会」を企画し、コミュニティセンターの文化講座の講師もやっていました。
アジアンカフェ
本好きな方を取り込む感じですか?
新田
落語に関しては、そうですね。書店もすごく少ないんですが、やはり読む人はいるわけで。しかも声出して読むって何だろう?と興味を惹きつけるわけです。いずれにせよ大量には来ませんが、大部分は演劇と関係のない人たちです。
片山
上田はいかがですか?
緑川(古典戯曲を読む会@上田)
上田の参加者は大体6〜7人くらいですけど、平均年齢は30〜40代。ご高齢の方は80代の方が一人来るだけと、なぜか年齢は若めです。開催は平日夜7時半からですが、固定ではなくて、集まった方と次回いつやりましょうかと相談しながら決めています。
★ネット偏重反対!子どもたちにも戯曲を!
望月
客席からの質問があまりありませんでしたが、もうお時間が迫っているので、これがラストチャンス、何か言うなら今ですよ!
参加者C(本読み会常連さん)
その集客ってことに関して。私はFacebook もTwitterもやってないんですよ。できれば携帯もネットも見たくねえ!っていうような奴で。そうすると、「あ、武蔵小杉、ちょっとハイソなところに爪痕を残してやりてえな」とか思っても、Facebook やTwitterでしか情報が流れないと、入り方が分からないから諦めちゃう。せめてブログとか、本読み会みたいにメールを流してもらって返信をするとか。だから集客というか、一般参加者への告知・伝達の問題ですね。どうすれば戯曲を読む人が増えるか、戯曲が本として売れるか、そういうことをもっと身近なところから考えていって欲しいんです。
参加者D
大人ももちろんですが、できれば小学生以下の子どもたちにも体験して欲しいと思っています。私が初めて戯曲を読んだのは小学校の時で、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』でした。妖精とか王女様がいっぱい出てくるお話って聞いたから参加して、初めてシェイクスピアを読んだんです。「こういう素敵な物語があるよ、冒険活劇があるよ」とか、小学生以下の子どもに向けてやっていただけたら、裾野が広がるんじゃないかと思います。
新田
僕は「おやこ読書会」ってのをやって。先月も青い鳥を自分で短くして作って、呼びかけたんですが、一人も来ませんでした(場内爆笑)
田舎ってね、いろんなスクールとかお祭りとか、行政の子供いじりが多いんですよ。今日、このイベントに参加した理由の一つは、全国で戯曲を読む会の認知度を上げてもらって、それで助成金をもらったり行政に宣伝してもらうのが一番だからです。働きかけはしてるけど、まだダメ。見に来てくれって言っても、誰も来てくれない。じゃあ今度はボトムアップだなと思ったわけです。そうやって行政を動かせれば、Twitterとかやっていない人たちにも、広報とかの形で情報が行き渡ると思うんですよね。
望月
最後に来て重要な問題が幾つか提示されましたが、もう終了時間が迫っているので、今からこの件について討議するのは困難です。これは私たちの宿題ということで持ち帰り、よく考えさせていただきます。貴重なご意見をありがとうございました。
※2019年大会のアンケート結果&レポートはコチラ。
※2019年大会の写真ギャラリーはコチラ。
閉会の辞
望月
最後に閉会の辞、松山さんお願いします。
松山
長い時間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。最後にフロアからいただいたご意見など、激励として受け止めさせていただきました。私たちはもっとパブリックな視点で、こういう活動をして行かなきゃいけないと、背筋の伸びる思いでございます。
それから今日 会場の運営をしてくれたのは、日大芸術学部演劇学科の学生たちです(拍手)
戯曲を読む会には、2つの形が考えられると思います。一つは、今日のように、名作と呼ばれながら、あまり読まれていない優れた古典を声に出していくもの。もう一つは、新しい劇作家が書いた新作を、いきなり上演という形ではなく、実験的に声に出していくもの。すでに日本劇作家協会の「月いちリーディング」みたいな試みもあります。新しい才能を持った劇作家が次々に現れてくれないと、戯曲文化は発展していきません。だから古典を温めるのと同時に、新しい劇作家を育てるための土壌としても、こういう読書会がもっと増えたらいいなと思います。
今日はいろんなテーマが出ました。塾で子供たちに教えてらっしゃる方の「稽古じゃないんだ」、新田さんからも「これは独立したジャンルなんだ」と。戯曲の本読みは、やはり「上演に向けての中途段階」として捉えられることが多い。でも途中で心理の話も出たし、教育の話も出た。戯曲の本読みというものは、まだ何処へでも行ける可能性を持っているんですよ。それが福祉の方向に行ってもいいし、教育の方向に行ってもいい。もちろんそのまま演劇の方向に行ってもいい。
古典戯曲を読む会さんの「演劇のカラオケ」というのは素晴らしいキャッチフレーズだと思います。カラオケに行く人は、歌手としてコンサート準備のためにカラオケをやるわけじゃない。フットサルをやる人は、サッカーをやる人数が集まらないからフットサルをやるわけではない。グラウンドホッケーをやっている人は、雪が降らなくてアイスホッケーができないからグラウンドホッケーをやっているわけじゃないんです。それと同じように、「戯曲を声に出して読む」という行為が、もっといろんな顔を見せて、いろんな方向に広がっていけばいい…それを確認できたし、皆さんからもそういうお話を伺えました。この大会の開催が、戯曲文化の発展のためにわずかでも寄与できたなら、これ以上の喜びはありません。本当に長い間、どうもありがとうございました。