いずも戯曲読書会レポート

◇昨年の<全国大会>は、ひとり東京に乗り込むという気分だったので、アウェイ感が強かった。今回は自宅からのファシリテーションであり、ホームアドバンテージが期待できるものと夢想していた。しかし、オンラインでのそれはまったく関係なかった。要はサポーターの問題、と気付く。そのサポーターたるべく地元常連組には、残念ながらテレビ会議システムも全国ネットもハードルが高すぎたようだ。参加申込みリストは開催直前まで見慣れぬお名前のオンパレードだった。

 ありゃ、参加する側のアウェイ感を考慮するのを忘れている。
 そうだ、他団体への参加者に当方のリストにも名前がある方が発見できるかも。
 映像ならばあらかじめお人柄も知ることができるぞっ!

◇そこで、<全国大会>では同一会場にありながら同時開催のため見学できなかった古典戯曲を読む会@東京と『本読み会』の様子を【覗き見】した。どちらの会も二人での主催。どちらも息の合った名コンビ。これほど強力で頼もしい友軍はない。インターバル毎の主催者の掛け合いが、満場の活発な談論を誘発する。長い継続の原動力を見た。

 楽しそうだなあ、対面型なら流れは自然に飲み会へ、だろうなあ。
 ウチの田舎はクルマ社会だから飲めないしぃ
 田舎の夜は早寝早起きの美徳のためにあるからなぁ
 おっと、主目的は【読み手】の方々と当方の参加者リストの照合だった。

◇この【覗き見】が大いに役立つことになった。他団体には【読み手】で参加されているにもかかわらず、当方へは【覗き見】になっている方が数名あった。さっそく個別にメールして、映像を見た感想と当方への【読み手】でのご参加をお願いした。理由はまちまちだったが、全員の方にご快諾いただいた。事前にコミュニケーションできたことも大きい。閑話休題。

◆今回の私の作品選びのポイントは地域性だった。実はもっとも苦手なテーマの一つである。苦手というより苦々しい。すると二人の演劇人の名が浮かんだ。地域社会の閉鎖性との葛藤をエネルギーとして蓄え、華の大東京で天賦の才能を爆発的に開花させた島村抱月と伊沢蘭奢の二人である。抱月と蘭奢は同郷で同時代の演劇人。近代劇史上のトピックスにおいても連続性がある。作家と女優のそれぞれ異なる代表作を「戯曲」を仲立ちとして結びつけるために少々頭をひねった。戯曲を舞台劇に、劇作家を主演女優にシフトしてみた。私の中の様々な齟齬がぴたりと消え去った。結果、以下になった。

女優の近代① 松井須磨子の『復活』 9月23日(水)19:00-
女優の近代② 伊沢蘭奢の『マダムX』9月25日(金)19:00-

◆9月23日(水); いずも戯曲読書会のフェスティバル初登場のこの日は、新調した私のWebカメラの音声機能が不調で、冒頭からいきなり暗雲がただようことになった。Webカメラを取り換えてからは大過なく、しかし、最初のタイムロスはついに取り戻せず、4時間半の長丁場になってしまった。当初から予定をうかがっていたお一人を除き、【読み手】全員の方に最後までお付き合いいただいて、いやはや恐悦至極 <(_ _)>

◇課題戯曲の『復活』(島村抱月翻案)のテキストは大正三年(1914)刊の単行本のコピーを使用した。旧字体で一見読みにくそうだが、全編ルビがふってあり、古風な言い回しもセリフとして読めばけっこう役づくりの手助けになり、案外その気にさせてくれるものだ。上記オリジナル単行本をなんの衒いもなく画面越しに掲げられた吉村元希さん(主催団体:戯曲組)の須磨子愛も特筆しておこう。松井須磨子は元希さんの高祖母にあたるとのこと。マジ血縁の方である。そのことを知っていてこの戯曲を選んだフシもないとはいえない。

◇開催間近になっての駆け込み申込みも少なからずあった。このイベントの代表世話役さん、もとい、<フェスティバル・コーディネーター>である大野遥さん(『本読み会』)もその一人で、【覗き見】から【読み手】への変更を、まさに直前にリクエストいただいた。舞台劇『復活』の主役男女二人だけのラストシーンは、時間が許せば全員に交替で演ってもらうことも考えていたが、上述の事情である。そこで、イベント主催者側ではあるが、これもまた上述の吉村さんと大野さんとの共演で第一日目の幕を閉じた。アメリカからご参加の方の部屋に、いつしか真昼の太陽光が差し込んでいたのがとりわけ印象深い。(参加者:計18名 読み手12名 覗き見 6名)

◆9月25日(金); 戯曲『マダムⅩ』の前人気は、早さにおいても人数においても戯曲『復活』を大きく上回っていた。当方の目論見もあり、ある意味想定内だったが、いま思えば、実はよく分からない。

 (1)「マダムX」なるタイトルのインパクト → ハズレ
 (2)小説「輪舞曲」(朝井まかて)の影響 → ハズレ
 (3)いわゆる知的好奇心をくすぐられ → 自白アリ
 (4)無名戯曲を読ませようとする変人の顔が見たい → 自白アリ

◇この芝居は、二十年ぶりにシンガポールから帰国し、横浜港の旅館に投宿する愛人関係の二人の場面からはじまる。今回は、なんと偶然にも、シンガポール在住の方のスタッフ志願があった。当然「マダムX」の冒頭シーンを奇遇と思っていることを伝える。参加申込みの第一陣がシンガポール組だったのは、もうこの時点では想定内だったが、エピソードとしては、なんという奇遇だろう!、にしておきたい。

◇こちらのテキストも上演時にほど近いの昭和七年(1929)刊の戯曲集のコピーを使用した。この頃になると活字の小型化が可能となり植字技術も高度化していることが、先の『復活』(1914)の単行本と比較するとよくわかる。が、ここで困ったことが起きた。手鞄、最う、呆然り、廃して、不可ない、惚氣、鹽梅 etc. ルビが振ってな~~い!

 伊原清々園『出雲の阿國』で全篇にルビを振った無謀がトラウマになっている
 当該戯曲が試し読みできるようにして苦情回避策とする
 事前に予習されることを祈るような気持ちで期待する

◇結果、ルビ問題はまったくの杞憂だった。文字に関しては細かくチェックしたと苦笑いされた人もいるし、ほとんどの方はそもリテラシーが高いのだった。戯曲などという一般読者にとって不親切きわまりない活字媒体は、自分の力で世界を切り開かない限り、楽しみも感動も知恵も得られないのだ。私はますます余計な親切はしないことになるだろう。

◇さて、いよいよ本番のご報告である。序幕のシンガポール帰りの男女は、シンガポールからのお二人を配役した。その内のお一人の背景を見ると、序幕の舞台装置である和風旅館の画像に差し変わっている。これぞまさしく「以心電信」。水を得た魚のような二人による、みずみずしく躍動感あふれる場面が現出した。「このコンビ、いったいいつ稽古したのだろう」

◇早くから申込みをされ、後日初参加の不安を訴えられた方。ほんの直前に【覗き見】から【読み手】に変更したいと電話連絡をいただいた方。この二人も印象深い。20人ほどの登場人物の幅広いキャラクターの内、若い女性役を担当していただいて、実に豪華なキャスティングが可能になった。ファシリテータ冥利に尽きるとはこのことだろう。

◇このレポート冒頭にサポーターのことを書いた。この日の一週間前に我が「いずも戯曲読書会」のメルマガを通じて<Help!>メッセージを配信した。地元メンバーは前の『復活』の倍に増えた。といっても計4名だが。ラストシーンはこの4人を意識した配役にした。次へのスタートであるとのメッセージを込めて。(参加者:計19名 読み手11名 覗き見 8名)

◆「オンライン打ち上げ!」の記憶は怪しい。ビールは医者に禁じられているが、缶ビール半ダースが空いていたので、私は終始ご機嫌だったことは間違いない。
 何度かのブレイクアウトルームがいよいよ最後になって、私がどこかで「予定調和はつまらない」や「意識して負荷を与える」と言った言葉が話題になっていた。筈だ。やがていつしか脱予定調和ショーが展開され… 「よそう、また夢になるといけねえ」(落語「芝浜」)

☆☆☆ 関係各位へ感謝! ☆☆☆


新田隆(いずも戯曲読書会)

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